素敵な勘違い 〜負け組同士のラブバトル〜
その阿部和馬だけど、やはりと言うべきか、私に対する態度に何も変化はなかった。憎たらしいったらありゃしない。

コンビニで顔を合わせた時、私はつい顔が熱くなってしまったけど、あいつは平然とした顔で、「温めますか?」なんて聞いて来た。あ、レトルトのグラタンの事ね。癪に障ったから、「いいえ、結構です」って言ってやったけど。


たぶん彼にとっては、私を抱いた事なんか取るに足りない事なんだと思う。ただのはずみ、あるいはボランティア? 確か本人もそう言っていたと思うし。


そして昨夜は、例の、阿部和馬には不釣り合いな美人の彼女が、あいつの部屋を訪れていた。偶然、彼女が来たのを私は見てしまった。

先日私が抗議したためか、例のあの“音”は聞こえてこなかったけど、私は無性にイライラした。なんでかは知らないけど。阿部和馬の節操のなさにか、あるいは生理前だからかもしれないけれど。


「田村君」


不意に名前を呼ばれ顔を上げると、噂のイケメン係長が私を見下ろしていた。


「あ、はい」


慌てて立ち上がると、曽根崎さんは素早く周りに目配せすると、私の耳元に顔を寄せて来た。


「よかったら、帰りに食事でもどうかな?」

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