素敵な勘違い 〜負け組同士のラブバトル〜
「驚いたかい?」

「え、ええ……」


確かに驚いた。だって、男の人から“気に入った”なんて言われたのは、生まれて初めてだから……


「だろうね。僕も驚いている」

「は?」

「僕がかつて付き合って来た女性とは、全く違うタイプなんでね、君は……」

「はあ」

「チャレンジしてみたくなったんだよ」

「そ、そうなんですか……」


何言ってるんだろう、この人。要するに、美人でもなければ女らしさすらない私に興味を持ったって事? 甘い物に飽きたから、塩っ辛い物、例えばお新香に箸を付けてみる、みたいな?

失礼しちゃうわ!


男の人から言い寄られたのは人生初だけど、もちろん喜ぶ気にはなれなかった。こんな人から、こんな言われようでは。


“私はそんなつもりじゃありませんから!”と言ってこの場を去りたい衝動にかられたけど、私はそれをグッと堪えた。この後の企みを、実行出来なくなるからだ。


「僕は今、フリーなんだ」

「フリー?」

「付き合ってる女性はいない」

「ああ、そうなんですか……」

「君もいないんだろ?」

「い、いません」


私に彼氏がいない事を前提に聞かれ、内心ではカチンと来たけど素直にそう答えた。一瞬、阿部和馬の顔が脳裏を過ぎったけれども。


「そうか。じゃあそういう事で、よろしく」

「はあ」


今日のところはうやむやにしておいて、明日以降も誘われたらはっきりお断りしようっと……

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