素敵な勘違い 〜負け組同士のラブバトル〜
その顔が、何て言うか、素敵だなと思ってしまった。阿部和馬なのに。やっぱり私……飲み過ぎだわ。


千円札と小銭を出した私にお釣りをくれる時、


「話があるから後で行っていいか?」


と、阿部和馬は小声で私に言った。

よし、このタイミングだわ。


「今夜は無理。お客さんがいるから」

「お客さん?」


怪訝な顔の阿部和馬を尻目に、私は横に来た曽根崎さんに向かい、


「ガム、決まりましたか?」


と言った。「ああ」と言って曽根崎さんはカウンターにガムを一つ起き、私は今受け取ったお釣りの硬貨をカウンターにピシリと置いた。


「悪いね」

と言う曽根崎さんに、

「いいえ、これぐらいは……」

と返しながら、私は阿部和馬を見た。たぶん“どうよ?”という感じのドヤ顔になってたと思う。


阿部和馬は、唖然とした顔で曽根崎さんを見て、次に私を見たのだけど、フッと一瞬笑ったと思ったら、その後は下を向いてしまった。


ちょっと、それはどういう意味よ?


阿部和馬は怒らなかった。それは少し残念ではあるけど、予想した通りではある。

一瞬だけど笑ったのは、呆れたからだろうか。うん、たぶんそう。でも……

阿部和馬が下を向く時、悲しそうに見えたのは私の思い過ごしだろうか……

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