素敵な勘違い 〜負け組同士のラブバトル〜
「シャワー、壊れてるの?」


ああ、やっぱりそう来るかあ……


「そうじゃないんです」

「じゃあ、どうして?」


裕子さんは、赤い口紅を引いた口元を尖らせ気味にし、小首をかしげ、潤みがちな瞳で俺を見つめた。

ああ、なんて色っぽいのだろう……


俺はクルッと後ろを向いた。そのまま裕子さんを見ていると、今にも欲望に負けてしまいそうだからだ。


「話したい事があるんです。冷たい物を持って来るので、義姉さんは座っててください」


そう言ってキッチンへ行き、冷蔵庫を開けて飲み物を探していたら、香水の甘い香りがし、俺の肩に裕子さんの柔らかな手が乗せられた。


「今日の和君、なんか変」


俺の耳元で呟くように言う裕子さん。


「そ、そうですか?」

「うん。もう私のこと、“裕子”って呼んでくれないの?」


やっぱりそこに気付くよなあ。
これから俺がどんな話をするのか、既に裕子さんは察していると思う。つまり俺が、別れ話をしようとしている事に……

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