素敵な勘違い 〜負け組同士のラブバトル〜
あ、ベッドなんだ。いいなあ……


「そこに横になれ」

「え? いいよ、床で……」

「遠慮すんなって。ほら」


私は阿部和馬に背中を押され、半ば強引に彼のベッドに座らされた。たぶん折り畳み式のそのベッドは、私が座るとギシッという音を発した。


ああ、あの音はこれだったんだ……


私はある不快な事を思い出し、思わず腰を浮かせかけたのだけど、


「横になれって……」

「触らないでよ!」


阿部和馬は私の体を横抱きの形で軽々と持ち上げ、私はベッドに寝かされた。


「病人は大人しくするもんだ」

「病人……?」

「ああ。顔が火照って真っ赤だぞ?」


確かに顔が熱い。熱中症になりかけだからと思うけど、今はそれだけじゃないかもしれない。阿部和馬の顔があまりに近いから、というのもあると思う。心臓がドキドキするのも、あるいはそのせいかも……


「枕が臭い」


阿部和馬なんかにドキドキする自分が嫌で、そんな憎まれ口を言ってみた。実際のところ、枕から、というかベッド全体から、微かに男の匂いがしていた。不思議と不快ではないのだけど……


「それぐらいは我慢しろ」


そう言って阿部和馬は私から離れていき、私は寂しさを感じた。


……ん? ちょっと待て。寂しい? なんでそうなる?
私、なんか変。絶対おかしい。どうしたんだろう。

……ああ、そうか。熱中症のせいだ。思考力が低下して、気持ちが弱くなってるんだ。そうよ、それだけの事よ。でなきゃ、阿部和馬なんかに……

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