素敵な勘違い 〜負け組同士のラブバトル〜
和馬はそれを見ても、特に足を早めるでもなく悠然と歩き、私はそんな彼の横を歩いて行った。もちろん手を繋いだままで。

近付いて見ると、やはりと言うべきか、集まった人達は若い人が多く、中には私達のようにカップルで来ている人達も……

あ、ハグしてる……!

若い男女が、満面の笑みでハグしている姿が目に映った。合格した彼氏と、それをお祝いする彼女の図だろうか。あるいはその逆かも。二人とも合格、というのはたぶんないだろうな。確率的に考えて。


いずれにしても羨ましいわあ。私もあんな風に和馬に抱き着き、喜びを分かち合いたいけど、無理だろうなあ。

ふと全体に目をやれば、チラホラと嬉しそうに笑っている人がいるけれど、大半の人は苦笑いを浮かべたり、呆然としていたり、必死な形相で掲示板を見つめていたりで、それが現実なのだと思う。


比較的背が高く、視力もいい和馬は、人垣の後ろから人々の頭越しに掲示板を見ていた。

受験番号なるものがあると思うけど、私はそういった事は一切教えてもらってないし、人の頭が邪魔でどうせ掲示板は見えないしで、横に移動する和馬の横をキープするのが精一杯だった。


「あっ……」


不意に和馬が声を発した。でも、“あっ”って何よ?

合否が判ったの?
受かったの?
落ちたの?
どっち?


はやる気持ちの私をよそに、


「行こう」


と和馬は言った。


「えっ? でも……」

「行くぞ」

「ちょ……」


和馬は私の手を強く引き、人々の群れからどんどん遠ざかって行った。たぶん怒ってるのだと思う。


いくらまた落ちたからって、怒ることないじゃない……


私は和馬に手を引かれながら、泣きたい気持ちになってしまった。

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