素敵な勘違い 〜負け組同士のラブバトル〜
「飲め」


少しして戻って来た阿部和馬は、そう言って水みたいな物が並々と注がれた大きなコップを私に差し出した。


「う、うん。ありがとう」


上体を起こしてそれを受け取り、ゴクゴクと喉に流し込んだら、水ではなくスポーツ飲料みたいな物だった。その手の飲み物は微妙な味なので普段は飲まないのだけど、今日は不思議と美味しく感じた。よく冷えているのと、たぶん体が欲していたからだと思う。

半分程残して返そうとしたら、全部飲めと言われた。何よ、偉そうに……

と一瞬思ったものの、不思議と嫌ではなかったし、頑張って全部飲み干した時、

「いい子だ」

と褒められた事が嬉しくさえ思えた。

私、やっぱり変だわ……


「だいぶエアコンが効いてきたな?」

「う、うん……」


言われてみれば、確かにもう暑さを感じなくなっていた。

阿部和馬は私の頭を持ち上げ、その下に氷枕みたいな物を置いてくれ、更には体にタオルケットを掛けてくれた。


「しばらく寝るといい」

「うん、そうする……」


阿部和馬に言われるまでもなく、私は猛烈な睡魔に襲われていた。

頭の下の氷枕みたいな物が冷んやりして気持ちよく、私は瞬く間に眠りに落ちていった。男の、というか阿部和馬の匂いに包まれながら……

< 8 / 83 >

この作品をシェア

pagetop