吹部!~夢と私~
2知られざる過去
それから私たちは、吹奏楽部の部員さんたちに挨拶をして帰る準備をしていた。
意外と優しい先輩ばかりでこれほど楽しいと思ったのは…何年ぶりだろうか。
葉月たちと帰っていると、ふとこんなことを葉月にきかれた。
「そういえばさ、桜は何で吹奏楽にはいったの?」
私は戸惑ったが、愛想笑いを浮かべながら「一度でいいから楽器を吹いてみたかったんだ。」
などど嘘をついた。
その時は気が付かなかった。
裕樹君の射抜くような視線を。
…そうだ。私は、吹奏楽が好きなんじゃない。
私は夢から、未来から、希望から…
-----逃げてきた、だけなんだ。
次の日。
私は葉月と裕樹君たちと、土日の部活に来ていた。
裕樹君のことは君付けでよぼうとおもう。
だってほら…は、恥ずかしいし…
部活の最初には必ず筋トレをする。
楽器を吹くには肺活量も必要だし、楽器の持ち方も気をつけなきゃいけないため腕力は必要だ。
足上げ腹筋、腕立て伏せ、階段ダッシュ…
そのときに必ずやることがある。
『ステップバイステップ』
という歌を自分のパ-トでふいている所を歌うのだ。
部員の人たちはやはり鍛えてるためか、そんなものをいとも簡単にこなしてしまう。
それが終わり、基礎合奏をしてお昼になっていた。
お弁当を食べ終わった時に裕樹くんに話がある、と言われ屋上に来ていた。
しばしの沈黙の後、裕樹君がこういった。
「お前がここに入部した理由…ほんとはほかにあんじゃねえの?」
と言われ、図星をつかれた。
私は動揺して嘘をつこうと口をひらいた。
でも、それより先に裕樹君に「頼む、教えてくれ。」
と頭を下げられたので仕方なくぽつり、ぽつりと話始めた。
「私は…私の夢は歌手だった。親からも、周りの人からも『百年に一度の逸材』とか言われたの。…でも生まれつき体が弱くて。
あまりたくさん歌うことはできなかった。それから病気になって、病院でずっと過ごしてきた…
そしたら私をほめたたえてた人たちも、皆いなくなった。すごく惨めだったなあ…
でも、最近は調子も良くなって、昔みたいにきれいな声を出すことは不可能じゃなくなった。
お医者様は『きれいな声がまた出せるようになるね。』って。
でも、私は知ってる。」
涙目になって、嗚咽も出そうだったから…この話を早めにおわらせるため、こういった。
『そんなことをしたら、声が出なくなる』
裕樹君は驚いていた。
私は笑顔で「それじゃ。」といって屋上のドアを閉めた。
---まるで、心のドアを閉めるように。
私は人影のない場所でひたすらに、
涙を流した。