【短】50-50 フィフティ・フィフティ
男の声がして、振り向くと、さっきのお髭さんがいた。


さっきは分からなかったけれど、背が高くて体格がいい。


青い手提げビニールに入った四角いものを掲げている。

見覚えがあった。


「映画館に忘れたでしょ?」


ニコニコしながら、私に手渡す。


「ありがとうございます…」


映画のパンフレットだった。

こんなの、もう、いらないのに。
早く痴漢に遭ったことを忘れたいのに。


そう思いながら、受け取った。


お髭さんの白いTシャツには、エンドウ豆のワンポイント。

…かわいい。


「学生さん?」


目尻の下がった優しい笑顔で私に訊く。


「いえ…働いてます」


「今日、仕事休みなの?」


「はい…早めの夏休みで、帰省してるんです」


「帰省?どこ?」


「K町です」


私の生まれた町の名前をきいた彼は、パン!と手のひらを打った。


「ああ~俺、K高校だよ!」


「えっ、そうなんですか?私も同じ高校です!」


「あっ、じゃあ、君、俺の後輩だ。もちろん、全然年下だけど…偶然だなあ」


「奇遇ですね…じゃ、失礼します」


頭を下げて立ち去ろうとした私をお髭さんは、呼び止めた。




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