【短】50-50 フィフティ・フィフティ


「それは苦しいなあ!」


はは、と人ごとだからって、楽しそうに笑う。


「おまけに、ただの女の子なら、良かったんですよ…
その子、こないだまでうちの病棟に来ていた実習生で。
ハタチソコソコの学生なのよ?
私が指導係だった。

ワタルだって知ってるのに、酷いよね…その子、揉める私達の前で泣き出しちゃって…完全に私が悪者。
やってられなかったわ。

もう、絶対別れる、2人でお幸せにって、叫んで出て行ったの…」


「すごいなあ、桜ちゃん、本気で怒らせたら、迫力あるだろうなあ…」


呑気な言い方に、私は腹を立てたふりをする。


「もおっ、松本さんて、意地悪!」


右手を伸ばし、軽く口髭を引っ張った。


「イテテ」


温かな笑顔に、私はいたずらした子供みたいな気分になる。

年の離れた男(ひと)を恋人にしたら、こんな風に甘えさせてくれるのかな。


私の話を楽しそうにきいてくれるものだから、ついつい口が軽くなってしまう。


「ああ、気分転換したいなあ…ねえ、なんか楽しいこと、なあい?」


「楽しいこと…そうだなあ」


ホッペを膨らませる私に、松本さんの視線は宙を彷徨う。





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