カノジョノカケラ
かなり長い時間が経った。

いつのまにか寝てしまっていた僕は、飛鳥の声で目覚ました。

「出来ました~!」

僕は若干疲れが溜まっているような気がする体をほぐしながらキッチンに入った。

「どうですか?」

飛鳥が作ったのは、直径約五センチほどの大きさのハート形のチョコだった。といってもただのハート形というわけではなくて、周りがアラザンでデコレーションされており、さらに色も、上半分は普通のチョコ色で、下半分はピンク色だった。

「スゴいな、飛鳥。僕だったら絶対出来ないな、こんなの…。」
「そうですか?ありがとうございます!…でも、意外と簡単ですよ、これ?」
「そう?かなり難しそうだけど…。」
「また機会があったら、お教えしますね。」
「うん。」

よくできたチョコを見ながら、僕は気づいた。

誰に渡すんだろう?

こんなに上出来なチョコを、友チョコとして渡すとは到底思えない。義理で渡すなんて想像もつかない。となると…本命?

誰に渡すんだ、とは言えない。でも、このままだと誰に渡すのか分からない。それは嫌だ。飛鳥が誰に渡すつもりなのか、気になって仕方がなかった。

「あ…。」
「ん?」
「あの、最後の仕上げを忘れてたので…ちょっとだけ、見ないで頂けますか?」
「あ…うん。」

部屋に戻りながら、僕は確信していた。飛鳥の言う最後の仕上げとは…チョコあるいはそれを入れる箱に、メッセージを書く作業なのだ、と。

飛鳥が何を書いているのか見ることができない。もどかしかったが、まあこういうのもありだろう。
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