カノジョノカケラ
翌日。

「あの、今日はちょっと早めに行きますね。」

歯磨きをする僕に、カバンを持った飛鳥が言う。

「何かあるのか?」
「も~、今日の日付から察して下さいよ。」

…なるほど。

飛鳥達チョコを渡す側は早く行って、男子のロッカーや机の中にチョコを入れておいたり、そうじゃなくてもチョコの見せ合いをしたり…こんな感じか。

「じゃあ、僕はいつも通りの時間で行くから。行ってらっしゃい、飛鳥。」
「行ってきます、太陽さん。」

ドアが閉まる。

…何か久しぶりな気がする。こうやって、朝の支度をするのが飛鳥と一緒じゃないのは。

葉月と付き合っていた時は、朝家に迎えに来てくれるのを楽しみにしていた。だから、こうやって朝の支度をしている間も、会えないという寂しさはもちろんあったものの、ちょっと楽しかったりもした。

今日も、一人だ。

でも…今日は、迎えに来てくれる人がいない。

僕は葉月と付き合っていた時よりも程度を増した寂しさを感じていた。

…これが現実か。

飛鳥との距離は、こんなものだったか。

僕はいつも僕の左にいたはずの存在を感じられずにアンバランスなまま、学校への道のりを、一人、歩いた。
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