カノジョノカケラ
「…。」

こんな所で、また迷わされることになるとは。

飛鳥がチョコをくれて、そこで終わっていたなら、僕は迷うことなんてなかった。

でも、高端が来た。だから迷った。

…高端が邪魔、というわけではない。むしろ、高端のことで迷えるということは、それだけ高端のことも真剣に考えている、ということだろうか。

分からなかった。自分のことが分からない。それは時々あるのだが、それは肝心な時に起こる。

「…今じゃないと、ダメか…?」
「別に、今じゃなくてもいいけど…。」
「だったら、一晩考えさせてくれ…。」

僕は二人が持っていたチョコをひったくるように取ると、教室へと戻った…いや、逃げた。

決めるなんて無理だ。

もともと僕はかなり優柔不断だけど、そんなものは関係なしに、これは決められない。

決めた時点で、どちらかの顔には幸せが溢れるだろう。でももう一人は…。

そう思うと、決めるという行為自体が罪であるように思えてきてしまった。

でもそれをしないといけない。

…素直に、辛かった。

僕は飛鳥を待たずに、一人で帰った。いつもより速く歩いた。逃げたかった。そう思っているのが分かると同時に、自分の弱さも身にしみて分かった。

僕は帰って部屋に入ると、いつかと同じように、ドアを見守った。両手に持ったチョコは、沈みかけの夕日と、昇りかけの月に照らされていた。
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