カノジョノカケラ
「…。」

僕は拳を握りしめ、そこに立ち尽くすしかなかった。

飛鳥のそばに行けない、それが、悔しかった。

「…ちょっと、いい？」
「何ですか…？」
「こんなこと言ったら怒るかもしれないけど…落ち着いて、聞いてもらえる？」
「はい…。」
「実はさ…。」

間が開く。相当言いにくいことなのだろうか。

「僕、飛鳥ちゃんは人間じゃないと思ってるんだ。」
「ふぇ…？」

あまりにも突拍子もない言葉だった。間抜けな声が出て、思わず噴き出しそうになったが、今はそんな空気じゃない。

「あの、どういう…。」
「飛鳥ちゃん、安堂君の家の前で倒れてたでしょ？僕、それを見てたんだけど、あの角度で倒れるためには、安堂君の家の方を向いて立っていないとあんな風に倒れることはできないんだ。」
「…どういうことですか？」
「だから、飛鳥ちゃんは意図的に安堂君の家の前で倒れていたっていうこと。」
「…。」
「僕がそう思う理由はそれだけじゃないんだ。飛鳥ちゃんの声…揺らぎが無いんだ。」
「揺らぎ？」
「うん。人間の声って、どんな時でも少しは揺らぐんだ。同じ周波数じゃないってこと。でも、飛鳥ちゃんの声からは、全く揺らぎが聞き取れないんだ。」
「分かるんですか、そんなの？」
「普通の人には分かんないんだけど、僕は一応研究者だからね。人の声とかも研究することがあるから、聞き取れるようになって来たんだ。」
「…っていうことは…。」
「…あくまでも僕の勝手な考えだけどね。飛鳥ちゃんは、人間じゃない…って思ってる。」
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