カノジョノカケラ
「飛鳥…。」

飛鳥の息は荒れていた。

「…ゴメン、ちょっと混乱してた…。」

触れてはいけないものに触れてしまったような、そんな感じがしていた。

「…飛鳥、飛鳥の正体は何なんだ…?」

すると、飛鳥は飛鳥自身の顔を手で覆った。

「私は…。」

そして、飛鳥はとんでもない一言を口にした。

「私は俗に言う『天使』なの、太陽。」
「えっ…?」

飛鳥の声は、四か月ほど聞いていない、あの声になっていた。

「ま、まさか…。」

飛鳥が顔を上げる。

「…久しぶり、太陽。」

飛鳥の顔は…葉月の顔になっていた。そして、声も同じく、葉月の声になっていた。

「葉月…?」
「覚えててくれたんだ、太陽…。」

その瞬間、断片が全て一つに繋がった。

飛鳥は…葉月が天使となった姿だ。突拍子もなく、あり得ないと思われるかもしれないけど、確信できた。

「…葉月…。」

僕は久しぶりに会えた喜びから、葉月を思い切り抱きしめようとした。だが、僕の体は葉月の体をすり抜け、地面にたたきつけられた。

「…こういうこと。もう気づいてると思うけど、私、本当に天使になっちゃったから…。」

もう、葉月はここにいない。

事実なのだが、受け入れられなかった。

「葉月…。」

一気に、葉月が遠い存在に感じられた。少し前までは、一番近かった人なのに。
< 138 / 142 >

この作品をシェア

pagetop