カノジョノカケラ
「…葉月がやったことは、確かに許せないことだよ。だけど…葉月はずるいよな。僕だったら…葉月のやること、全部許しちゃうから…。葉月のこと、好きだから…!」
「太陽…。」

葉月と僕は、どちらからともなく抱き合った。

「…うぅっ…。」

葉月の嗚咽が肩を通じて聞こえる。

「大丈夫だって。僕が死んだら、あっちで会えるんだろ?」
「そうだけど…。」
「心配すんなって。僕は蒼衣ちゃんの時みたいに、謎が残る死に方はしないから。」
「どういうこと…?」
「遺書書くから、ちょっと待ってて。」

僕はまだ使っていなかった原稿用紙に、一文字一文字、書いていった。何を書こうかなんて、迷わなかった。僕は、これを見るであろう皆に、伝えたいことを書き連ねているだけだったからだ。

「よし…。」

一呼吸置いてから、僕は長めの延長コードを持ってくると、ハンガーを掛けているS字フックに引っかけた。そして僕は椅子に立ち、コードを首にきつく巻き、硬くコードを結んだ。

「…ちょっと待ってて、葉月。すぐ行くから。」

僕は椅子を蹴り飛ばした。

呼吸ができなくなる。だが、これでいいんだ、という僕の思いは揺るがなかった。葉月に言われてやったことじゃない。これは、僕の意志だから。

意識が薄れて行く。僕は眠るように、目を閉じた。

…そしてしばらくすると、体がふわりと宙に浮くような感覚があった。ゆっくりと目を開ける。そこには、笑顔の葉月がいた。

「行こう、太陽。」
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