カノジョノカケラ
それから、僕達は色々なことをした。

水族館の名物であるイルカのショーを見たり、真っ暗な部屋で深海魚を見たり。

正直言うと…僕はあまり楽しくはなかった。

一つ一つの出来事に、葉月の記憶がまだしつこくまとわりついていた。もう引きずらない、と決めたはずなのにこうなるのは、葉月への思いが強いだけなのか、それともただ単に僕の意志が弱いだけなのか。それは僕にも分からなかった。

そんな気持ちが、顔に出てしまっていたんだろう。

「どうしたんですか?」

帰り道。飛鳥が心配そうな面持ちで問いかける。

「何でもないよ…。」

こんなところで「楽しくなかった」なんて言ったら、断ち切れそうだった悲劇のスパイラルがまた修復されそうで怖い。

「楽しくなかったんですか?」

図星だ。でも、僕は口が裂けても言えない。

「そ、そうじゃないって。その…。」
「葉月さんのこと、思い出しちゃいましたか…。」
「…。」

隠し通せない、と思ってしまった。そして僕はまた、自分で勝手に立てた誓いを勝手に破った。
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