カノジョノカケラ
「安堂君。」

丹隼さんが落ち着いた口調で話す。

「他人には言えない事情ってのがあると思うよ。今は…そっとしておこう。」
「でも…。」
「急ぐ気持ちは分かる。けど、準備もできてないのに急いだら、空回りするだけ。」
「…。」

僕は受け入れるしかなかった。もちろん、本当は受け入れたくなかった。

丹隼さんが言うように、僕は急いでいる。少しでも早く、犯人を見つけないと。少しでも早く、飛鳥のことを知りたい…知りたい?

ここまで考えて、僕は自分自身の浅さに気づいた。

僕はただ、自分自身のためにやっているにすぎなかった。

飛鳥のことを知って、得をするのは一体誰だ?…それは、僕以外にいない。

完全な「自己中」だった。

そうなると、犯人を見つけ出す、という方も一歩踏みとどまって考えてみる必要があるように思われた。

犯人を見つけて…一体どうなるんだろう?

犯人を見つける。そして罪を認めて反省してもらうのが目的だけど、反省してもらって、それでどうなるんだ?葉月と蒼衣ちゃんは戻ってくるのか?

…やっぱり、これも結局は僕の「自己中」が生みだしたものだった。
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