カノジョノカケラ
僕の頭に、ある可能性が浮かんでいたからだ。

自惚れかもしれないが、高端は…僕のことが、好きなんじゃないだろうか。そう考えると、寿司屋での高端の表情も、さらには今日の行動の理由にも説明がつく。説明内容は、言うまでもないと思うが。

「太陽さん?」

飛鳥の表情に、不安と焦りが募って行く。恐らく、飛鳥にとってもこの質問はかなり重要なのだろう。

「…何でもないよ。」

安心させるため。

僕の中では、そういう大義名分ができあがっていた。

僕がそう言うと同時に、僕は飛鳥に隠しごとをしてしまったことになる。僕達の間の隠しごとを嫌っていたのは、僕だというのに。

「…それなら、よかったです。」

飛鳥に、若干無理をしているような笑顔が表れた。

「…太陽さん。」

飛鳥は僕の名前を呼ぶと、隣で座っている僕の肩に、頭を乗せた。

「ちょっとだけでいいので…こうさせて下さい。」

飛鳥は僕の肩の上で、安らかな表情を浮かべていた。一緒にいると落ち着くのは、飛鳥の方も同じらしい。

「スー、スー…。」

五分もたたないうちに、飛鳥が寝息を立て始めた。本当に眠たかったらしい。

さっきの間で飛鳥が不安になってしまったかもしれない。僕は飛鳥がいい夢を見られるように、飛鳥の手をそっと握った。そして知らないうちに、僕自身も眠りに着いた。
< 93 / 142 >

この作品をシェア

pagetop