STOP
第18話
「みんないいぞ、その調子だ!」
楠田が興奮しながら選手を迎えた。
「園山、見事なカウンター攻撃だったな。まさに『してやったり』という感じだな。」
「でも監督、相手は攻め方を変えてきます。たぶんカウンターはもう使えません。」
言いながら英はグラウンドに寝そべった。
「なあに、相手は2点を取り返しに遮二無二攻めてくるさ。カウンターはさらに有効だ。」
楠田はそう言ったきり、戦術について何も語らなかった。
「園山先輩は、葉山中がどういう攻めをしてくると思いますか。」
松永が小声で聞いてきた。
「さあな、攻め方はわからねえが、俺のマークはきつくなるだろうな。」
「大丈夫ですか?かなり疲れているようですけど。」
「まあ、なんとか持つさ。後半、松永には俺の分まで動いてもらうことになるだろうけどな。」
「俺は大丈夫です。どんどん使ってください。」
「頼りにしてるぜ、後輩。」
英はそう言うと、目を閉じ、時間いっぱいまで休んだ。
ピーッ。後半開始の笛が鳴った。
葉山中はバックラインを前半よりもかなり下げてきた。
明らかにカウンターを警戒した守りだ。
さらに案の定、英には葉山中ミッドフィルダーがガチガチのマンマーク。
実力に勝る葉山中は、緑丘中の攻撃の糸口を切り、確実に勝つ作戦を選んできた。
(ちっ、やはりその手で来たか。)
英は思い切った作戦に出ることにした。
「松永、トップ下に入ってくれ。俺はボランチだ。」
「はい。」
(なるほど守りを強化して、勝負どころで相手のマークを振り切って反撃に転じるということか。ミニゲームの時の戦法だな。)
松永は英の考えをすぐに理解した。
英がディフェンスに回ったことで、葉山中の攻撃がいくぶん鈍った。
しかし緑丘中はついに相手に得点を許してしまった。
桑田の守備力が弱いことを気付かれ、そこをつかれたのだ。
サイドライン際をドリブルしてきた相手のフォワードが、桑田を振り切り鋭いセンタリングを上げた。
ボールは長身のセンターフォワードにドンピシャだった。
キーパーは一歩も動けず、ゴール右隅に決められた。
(ちくしょう、ついに1点入れられたか。それも後半が始まって10分も経っていないというのに…。)
英は中腰になり荒い息をついていた。
(でもここで守りに入ったら、一気にたたみかけられてしまう。ここは勝負だ!)
だが、キックオフのボールを受けた英は、味方にパスをすると、後方に下がってしまった。
「園山、なに下がっているんだ。ここは攻める時だろ。」
楠田が怒鳴る。
その時、葉山中が味方のボールをパスカットした。
そしてまた桑田がいる方のサイドから攻めてきた。
ディフェンスの選手がライン際を駆け上がり、パスを受ける。
桑田が振り切られた。
だが、桑田が抜かれた瞬間、桑田の後ろから英が現れ、ボールを奪った。
「松永!」
英はそう叫んだ後、敵を一人かわし猛然と走りだした。
相手の選手が3人詰めてきたが、近づいてきた松永にパスを出した。
松永はダイレクトで英に壁パス。
さらにパスを受けた英はゴールへ向かって突き進んだ。
松永はいつでもパスを受けられるように英の右側を走っていた。
清水が前線で相手ディフェンスをかき回す。
ボールはハーフラインを5メートル程超えたところだ。
(まだ、清水にはパスが通らない。もう少しゴールに近づかないと…。)
「逆サイドにパスだ!」
松永にパスしながら英が叫んだ。
チーム一の俊足、ウイングの持田がライン際を走っていた。
松永がパスをだす。
「松永フォローに行ってくれ。清水ニアサイドだ。」
そう言いながら英は持田の逆サイドへと走った。
清水がニアサイドに走りこむ。
持田からパスを受けた松永がセンタリングを上げた。
そのボールは清水の頭の上を越えて、フリーの英へ。
胸でワントラップしてシュート。
ボールはサイドネットに突き刺さった。
この1点が葉山中の反撃ムードを一変した。
葉山中は、焦りからミスを連発し、緑丘中に攻め込まれる場面が多くなった。
そして葉山中が意地の1点を取り返したところでゲームが終了した。
「やられたよ。」
葉山中の長身フォワードが英に話しかけてきた。
「お前、園山っていうのか。お前みたいな選手がいるなんて知らなかったぞ。なんで県代表に選ばれなかったんだ。」
「さあ、そんなこと知らねえよ。」
「なあ園山、俺北高に行くんだけど、お前も行くんだろ?」
北高はサッカーの名門で、6年連続全国大会に出場している。
「いや、俺は西城に行く。」
「西城?…そうか、お前頭いいんだな。」
「頭はよくないけど、西城に行かなきゃならないんだ。西城に行って北高を倒す。」
「わかった、じゃあ来年も敵だな。高校では負けないぜ。」
「ああ、よろしくな。太刀中(たちなか)舜(しゅん)君。」
英は太刀中に背を向けて、味方のベンチに歩いて行った。
(俺の名前、何で知ってるんだ?)
太刀中は不思議そうに英の後ろ姿をしばらく見ていた。
楠田が興奮しながら選手を迎えた。
「園山、見事なカウンター攻撃だったな。まさに『してやったり』という感じだな。」
「でも監督、相手は攻め方を変えてきます。たぶんカウンターはもう使えません。」
言いながら英はグラウンドに寝そべった。
「なあに、相手は2点を取り返しに遮二無二攻めてくるさ。カウンターはさらに有効だ。」
楠田はそう言ったきり、戦術について何も語らなかった。
「園山先輩は、葉山中がどういう攻めをしてくると思いますか。」
松永が小声で聞いてきた。
「さあな、攻め方はわからねえが、俺のマークはきつくなるだろうな。」
「大丈夫ですか?かなり疲れているようですけど。」
「まあ、なんとか持つさ。後半、松永には俺の分まで動いてもらうことになるだろうけどな。」
「俺は大丈夫です。どんどん使ってください。」
「頼りにしてるぜ、後輩。」
英はそう言うと、目を閉じ、時間いっぱいまで休んだ。
ピーッ。後半開始の笛が鳴った。
葉山中はバックラインを前半よりもかなり下げてきた。
明らかにカウンターを警戒した守りだ。
さらに案の定、英には葉山中ミッドフィルダーがガチガチのマンマーク。
実力に勝る葉山中は、緑丘中の攻撃の糸口を切り、確実に勝つ作戦を選んできた。
(ちっ、やはりその手で来たか。)
英は思い切った作戦に出ることにした。
「松永、トップ下に入ってくれ。俺はボランチだ。」
「はい。」
(なるほど守りを強化して、勝負どころで相手のマークを振り切って反撃に転じるということか。ミニゲームの時の戦法だな。)
松永は英の考えをすぐに理解した。
英がディフェンスに回ったことで、葉山中の攻撃がいくぶん鈍った。
しかし緑丘中はついに相手に得点を許してしまった。
桑田の守備力が弱いことを気付かれ、そこをつかれたのだ。
サイドライン際をドリブルしてきた相手のフォワードが、桑田を振り切り鋭いセンタリングを上げた。
ボールは長身のセンターフォワードにドンピシャだった。
キーパーは一歩も動けず、ゴール右隅に決められた。
(ちくしょう、ついに1点入れられたか。それも後半が始まって10分も経っていないというのに…。)
英は中腰になり荒い息をついていた。
(でもここで守りに入ったら、一気にたたみかけられてしまう。ここは勝負だ!)
だが、キックオフのボールを受けた英は、味方にパスをすると、後方に下がってしまった。
「園山、なに下がっているんだ。ここは攻める時だろ。」
楠田が怒鳴る。
その時、葉山中が味方のボールをパスカットした。
そしてまた桑田がいる方のサイドから攻めてきた。
ディフェンスの選手がライン際を駆け上がり、パスを受ける。
桑田が振り切られた。
だが、桑田が抜かれた瞬間、桑田の後ろから英が現れ、ボールを奪った。
「松永!」
英はそう叫んだ後、敵を一人かわし猛然と走りだした。
相手の選手が3人詰めてきたが、近づいてきた松永にパスを出した。
松永はダイレクトで英に壁パス。
さらにパスを受けた英はゴールへ向かって突き進んだ。
松永はいつでもパスを受けられるように英の右側を走っていた。
清水が前線で相手ディフェンスをかき回す。
ボールはハーフラインを5メートル程超えたところだ。
(まだ、清水にはパスが通らない。もう少しゴールに近づかないと…。)
「逆サイドにパスだ!」
松永にパスしながら英が叫んだ。
チーム一の俊足、ウイングの持田がライン際を走っていた。
松永がパスをだす。
「松永フォローに行ってくれ。清水ニアサイドだ。」
そう言いながら英は持田の逆サイドへと走った。
清水がニアサイドに走りこむ。
持田からパスを受けた松永がセンタリングを上げた。
そのボールは清水の頭の上を越えて、フリーの英へ。
胸でワントラップしてシュート。
ボールはサイドネットに突き刺さった。
この1点が葉山中の反撃ムードを一変した。
葉山中は、焦りからミスを連発し、緑丘中に攻め込まれる場面が多くなった。
そして葉山中が意地の1点を取り返したところでゲームが終了した。
「やられたよ。」
葉山中の長身フォワードが英に話しかけてきた。
「お前、園山っていうのか。お前みたいな選手がいるなんて知らなかったぞ。なんで県代表に選ばれなかったんだ。」
「さあ、そんなこと知らねえよ。」
「なあ園山、俺北高に行くんだけど、お前も行くんだろ?」
北高はサッカーの名門で、6年連続全国大会に出場している。
「いや、俺は西城に行く。」
「西城?…そうか、お前頭いいんだな。」
「頭はよくないけど、西城に行かなきゃならないんだ。西城に行って北高を倒す。」
「わかった、じゃあ来年も敵だな。高校では負けないぜ。」
「ああ、よろしくな。太刀中(たちなか)舜(しゅん)君。」
英は太刀中に背を向けて、味方のベンチに歩いて行った。
(俺の名前、何で知ってるんだ?)
太刀中は不思議そうに英の後ろ姿をしばらく見ていた。