STOP
第23話
「よし、クリアーだ!」
和人の声に、左サイドバックの澤田がボールを大きく蹴った。
ボールはハーフウェイラインをわずかに越えて奥山中陣地に落ちた。

決勝戦が始まって15分が過ぎていた。
得点は0対0、互角の戦いだ。
応援団の歓声が轟き、グラウンドは異様な熱気に包まれていた。
それといいうのも、このサッカーの試合で勝った方の学校が総合優勝を獲得することが決まっているからだ。
5種8大会のうちすでに7大会が終了し、残すはこのサッカーの試合のみ。
現時点での成績は、1位奥山中75点、2位緑丘中74点、3位浜里中と川原中64点と続く。
奥山中と緑丘中の生徒たちでグラウンドの周りはぎっしりと埋め尽くされていた。

その観衆の中に、月野がいることを和人は確認していた。
試合中もボールがコートの外に出ると、月野の顔を探した。
月野は2人の友達といっしょに大きな声援を送っていて、和人と眼が合うことはなかった。
だが、この大舞台で活躍すれば、月野の気を引くことができるかもしれない。
和人は大きな期待を寄せていた。

「松永の調子が悪いみたいだな、俺たちのサッカーができていない。」
英が和人に近づいてきて小さな声で話した。
「この前の試合で右足を痛めていたんだ。あの様子だとかなり無理をしてるんじゃないかな。」
「ちっ。」
英が少し顔をしかめた後、松永の方へ寄って行った。
「おい松永、足は大丈夫か?」
「え?あ、はい、大丈夫です。ちょっと踏ん張りが利かないですけど。」
「そうか、でもお前のことだ、かなり無理してるだろ。前半はあと5分で終わる。でもその前に1点取っておきたい。」
「どうするんですか?」
「お前はボールを受けたら、無理せず俺か和人に返せ。そしてお前はゴール前に走って相手をかく乱するんだ。」
「はい。」

「さてと、ハーフタイム前にちょっと無理してみようか。」
英はそう呟き、ふーっと息を吐いた。
大粒の汗が英の額から流れている。
「見てろよ奥山中、超中学級のテクニックを見せてやるぜ。」
英の顔が引き締まった。
奥山中は英へ厳しいマークを付けていた。
そのため英は味方からのパスを受けることがなかなかできない。
自然とボールは松永へ集まる。
だが、右足を負傷している松永は思うような動きができずにいた。

また松永へボールが入る。
その瞬間、英がマークを振り切り前線へと駆け上がった。
松永は英の指示通り和人へボールを返す。
和人から英へボールが渡った。
相手のディフェンダーが詰めてくる。
英は素早くボールをまたぎ、そのデイフェンダーを抜いた。
さらにもう一人詰めてきた。
その相手も得意のフェイントで抜き去る。
敵が二人同時に詰めてきた。
英は右ウイングの選手にパスを出し、壁パスを受けてそのままタッチライン沿いを走った。
「こっちです!」
ニアサイドに走りこんできている松永が大声を出してパスを要求した。
すると敵のストッパーとゴールキーパーがあわてて松永に張り付く。
英がセンタリングを上げた。
ボールは、松永を通り越してゴール正面の清水へ通る。
完全にフリーの清水は落ち着いてヘディング。
ボールはゴール中央へ見事に突き刺さった。

その瞬間、どっと歓声がわきあがった。
英が膝をつき、両手のこぶしを空へ向って突きあげた。
「やっぱり英は違うな。」
和人が両手を腰に当てて、呆れたような顔をした。

そこで前半終了の笛が鳴った。
ベンチへ引き上げる選手たちに、周りから大きな声援が飛ぶ。
和人は月野の顔を捜した。


月野は、― 英にタオルを渡していた。
英はそれを受取りながら、月野と二言三言会話をした。
笑いながら、いかにも仲がよさそうに。

(うそだろう!英と月野さんがあんなに仲良く話すなんて…)
和人は眼をぱちぱちと瞬いた。
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