STOP
第3話
 時間が止まっている最中にデジカメの電池が切れることを恐れた和人は、家から少し離れた大型の電器店でACアダプターを購入することにした。
 自転車を走らせ、10分ほどでその店に到着。
 自動ドアをくぐると、40代半ばくらいと思われる男性の店員が「いらっしゃいませ」とあいさつしてきた。
 和人がすかさずデジカメを見せ、これに合うACアダプターはないかと尋ねると、その店員はにっこり笑ってデジカメを受け取った。
 そして同じメーカーのカタログを手に取りページをめくる。
 すると「ん?」と短い声を発し、ページをめくりながら首をかしげた。
 同じ名前でデザインがよく似たデジカメはあるのだが、型番の番号が微妙に違うのだという。
「おかしいですね。この機種はR250が1年前に発売され、R260がつい1か月前に発売されたばかりなんです」
 店員は眉間にしわを寄せて和人を見つめた。
「はあ。」
「お客様から預かった機種はR320と書かれています。…が、メーカーのカタログにはR300番台というのは載っていません」
「はあ…、ということはどういうことですか?」
「わかりません。」
 店員は3回ほど横に首を振った。
「ですので、ACアダプターは取り寄せるのに少し時間がかかるかもしれませんね」
和人は待っていられなかった。
「あのう、R250やR260のアダプターじゃ合わないんですか?」
「差し込み口の形状からみておそらく合うと思いますが、電器店としてはあまり勧められないですね」
「実は急いでいるもので、取り寄せていただかなくていいです。合うやつを買います」
「しかしそのせいでデジカメに何か不具合とかがあっても責任は持てませんが?」
「はい、それでいいです」
「ではR260のアダプターを持ってきますね」
 店員はカウンターの奥に引っ込むと15秒ほどで戻ってきた。
 手には透明な専用の袋に入ったACアダプターが持たれている。
「ちょっとつないでみましょうか?」
「はい」
 店員は和人の返事を待たずにデジカメとアダプターをつないだ。次にアダプターを近くのコンセントにつなぐ。すると1秒ほどでアダプターの赤いランプがついた。
「デジカメに内蔵されている充電バッテリーに、今充電がされています。このランプの色が赤から緑になれば充電完了です。」
「よかった。それ、いくらですか?」
「4千8百円です」
 和人はそんなに高いとは思っていなかったので少しびっくりしたが、幸い5千円札を持ってきていた。店員はそれを受け取ると和人にアダプターとおつりを渡した。
「ありがとうございます。先ほども言いましたがこのアダプターは純正品ではないので・・」
「わかっています」
 店員の言葉を遮るように頭を下げながら和人は電器店から出た。
(なんてことだ。今月のお小遣いが10日を残してなくなってしまった!)
 和人は歩きながら小さくため息をついた。
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