桜色の手紙
無意識に着たのがラフな服でよかった。肩からは小さな鞄と一眼レフ。一人の海は、軽装で行くのが一番だ。



あの夏は、彩芽と一緒に行ったんだっけなぁ。



そんなことを、ふと思い出す。



あの頃はまだ、彼女はあまり人前には出なかったし、よく失敗をしたし、いつも無表情だった。

だけど、いつしか髪が伸びて大人っぽくなって、落ち着いた美人の顔になって、美しい高校生になったのだ。
もちろん失敗だってたまにはする。だけどそこにはどこか余裕があって、柔らかいのにしっかりとした構えがあった。




私はあの子には及ばなかった。



あの子より上手にピアノが弾けるけど、
あの子よりきれいな声で歌えるけど、
あの子より痩せているけれど、




あの子と私は比べ物にならなかった。



少なくとも先輩の目からすれば全然違うように見えていたのだろう。


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