手をのばす
「まさかね」

心の中に浮かんだ小さな疑問をかき消すように、私もビールをぐいっと飲み干した。


沢渡のビールが運ばれてきたついでに、ワインをオーダーした。


「江崎さんの仕事は落ち着いた?」

「うん。やっと。決算が終わってもうすっかりいつもどおり。でもね、入社以来はじめてあんなに忙しくなったけど、なんだか楽しかったなあって」


「それわかるよ。俺もそうだもん。がーって忙しくなると目が回りそうになるけど、店のみんなで乗り切った時なんか、体はぐったりでもあー楽しかったなって思うよ」

と沢渡は頷いた。


その言葉を聞いて私ははっとする。


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