手をのばす
その問いにはすぐ答えなんて出ない。

出なくてもいい。

ただ、この気持ちを感じていられるのなら、それだけでいい。




私たちはしばらく他愛のない話を続け、バーを出た。

「送るよ」

沢渡がそう言ってくれたので、私は頷いた。



二人で薄暗い歩道を歩いた。


「江崎さんてさ、彼氏いないの?」

突然沢渡がそんなことを言ったのでちょっと驚きながらも

「いるわけないでしょ。でも沢渡くんは彼女いるよね?」

と酔いにまかせてさりげなく、かねての疑問を口にした。

「お、決め付けてるね。どうしてそう思うの」

「えーと、何となくだけど。彼女の一人や二人、いそうだから」

私のちょっとした軽口に、沢渡は大げさに反応した。

「ひっでえ。そんな風に軽く見えるんだ?」

「だって明るいし、こんな私なんかにも優しくしてくれるでしょ」

思わず自嘲気味にそう口走ってしまった。



すると沢渡は突然真面目な顔になり

「私なんか、とか言うなよ。江崎さんはなんか、じゃないよ?」

と言って立ち止まった。


沢渡のまっすぐな強い目に、私は何も言えなくなった。

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