手をのばす
これがもしや、恋の魔法ってやつ?


そんな言葉を思い浮かべて、勝手に一人ですごく恥ずかしくなった。


自分の気持ちに気づいたあの夜、沢渡はアパートまで無事に送り届けてくれた。

私は名残惜しくて、その背中が暗がりに溶けていくまで、ずっと見送っていた。

見えなくなると、さっきまですぐ隣にいたのに、なぜか切なくて。


私はこれまで恋をしたことがない。


男の人を、心から愛おしく思ったことなどなかった。

なのにこの気持ちは恋だと確信できる。

説明なんてできないけれど、そう思う。


誰かに、この説明できないけれど確かな気持ちを聞いてもらいたい。



・・・・・・本当は沙耶に話したい。

けれど、あの時打ち消した「まさか」が

心のどこかに引っかかっていた。

沙耶は、私が沢渡を好きだと知ったらどう思うだろう?



異音を立ててコピー機が止まった。
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