手をのばす
「あれ?紙づまり?」

沙耶が用紙の排出口を覗き込む。

「待って」

と私はコピー機の前カバーを開けて、蛇腹のように折れ曲がった紙を抜き取った。

それを見ていた沙耶は

「さすが先輩!恐れ入りました」と小さく拍手をした。



その時沙耶の指に見慣れない指輪がはまっていることに気づいた。

シンプルなシルバーに、透き通った青いラインが入っている。


「かわいい。その指輪買ったの?」

「あ、うん。箱根でね。そうだ今日由紀子におみやげ持ってきたの。お昼休みに渡そうと思ってたんだけど」

右手の薬指に光る小さな輪に触れながら沙耶はそう言った。

「ほんと?ありがと」


沙耶の旅行の話になっても、今日の私ならきっと落ち込まずに聞けるはず。



私は再び動き出したコピー機に意識を戻した。
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