手をのばす
それでも気を取り直して、にこやかに話しかける。


「沙耶、箱根はどうだった?旅館どんな感じだった?」

一緒に行った友達のことにはあまり触れたくなかったので、そういうたずね方をした。


「うん、天気もよかったし、旅館もなかなかいいところだったかな。料理もおいしかったし・・・・・・」

私は話を聞きたいふりをして何度も頷いた。


でも、沙耶の話はこれ以上続かない。


そのまま黙ってサラダを食べている。

なぜか、あまり話したくなさそうに見えた。


「温泉は?露天風呂?」

このまま話を終えるのもどうかと思い、また聞いた。


「え?ああお風呂は、部屋に露天風呂がついてた」

「そうなんだ、じゃあずいぶんいい部屋に泊まったのね」

「うん、まあ」

沙耶は言葉を濁した。


実はあんまり楽しくなかったのかな?


そう考えると、少しほっとした。



右手の指輪の、慣れない重みを気にしながら、私はおにぎりを頬ばった。
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