手をのばす
もう季節はすっかり秋めいている。


風が運んでくる金木犀のにおいを感じながら、私は喫茶店への道をゆっくりと歩いた。
腕時計を見る。まだ9時ちょっと前だった。


週末のこの時間だったらきっと沢渡と話せるはず。


そう思い浮かべただけでまたどきどきしてくる。

早く会って話をしたい。笑顔を見たい。


そう思うと自然と足早になっていた。


喫茶店のドアを開けると、「いらっしゃいませ」と声がかかる。

でも沢渡の姿がない。

私は目で懸命に店内を探した。


女性のスタッフが近づいてきて軽く頭を下げてから

「沢渡は今ちょっと買い物にでかけています。こちらへどうぞ」と微笑んだ。
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