手をのばす
沢渡がトイレに立ったとき、私は沙耶に小さく尋ねた。

「どうしたの?具合でも悪いの?」

食べ物がどんどん運ばれてきても、沙耶はあまり口を開かず無表情ばかり見せていた。


「ううん、そんなことないよ」

「でもいつもみたいにあまり話さないじゃない?」

いくらか批判じみてしまったかもしれない。


「沢渡さんがいるから、ちょっと緊張しちゃってるの。ごめんね気にしないで」

申し訳なさそうに沙耶が答えた。

「それならいいけど・・・」


「沢渡さんて、彼女いないんだね」

「え?あ、そうね。そういってたね」

「それなら、私が誘っても大丈夫かな?来てくれるかなあ?」

沙耶は私の方に体を向けてそう言った。


「うん、きっと大丈夫だよ」

そう答えるしかなかった。

「じゃあ帰り際に誘ってみる。今度は二人でどうですかって」

二人で、というのは沢渡と沙耶のことだ。

分かっている。分かっているのに、心に突き刺さる。

「うん、いいんじゃない」

なんとか笑ってそう言えた。


口の端がひきつりそうで、隠すように頬づえをついた。
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