手をのばす
バーを出てから、ずっと沈黙だった。


沢渡は前のように「送るよ」とは言わず、一歩前を歩いている。



つかず離れずの距離だった。

手を少しだけ伸ばせば届く、そんな距離。

街灯に照らされてできた長い二つの影は、そっと寄り添っている。


どこに向かっているのかわからない。

沢渡が今何を思い、足を進めているのかもわからない。


うなだれそうになったとき、ふと心の中で沙耶の視線を感じた。



・・・・・・由紀子は本当に何とも思ってないの?

耳の奥で沙耶の声が聞こえた。




沙耶には、渡したくない。
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