手をのばす


沢渡の袖口をそっと引く。


すると振り向きざま、沢渡は私を強く抱きしめた。



「好きなの」

沢渡の胸の中で、かすれた自分の声を聞く。



やっと、やっと言えた。



頬にあたる沢渡の服から、優しい体温が伝わってくる。

そのあたたかさは、眩暈を感じるほど幸せだった。
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