手をのばす
暗闇の中で、私は見慣れた天井を見つめていた。

一人で夜中に目が覚めて、しんとした夜に取り残されるのは嫌だ。

でも、今夜は違う。



隣には大好きな人がいて、やわらかい寝息を立てている。

ゆっくりと上下する沢渡の胸をそっと撫でた。

無造作に投げ出した腕の中が私の居場所だった。



いつも一人で寝ているシングルベッドに、男の人と寄り添って眠る。

ちょっと窮屈だけど、この心地よさはなにものにもかなわない。

肌が重なり合う感触の愛おしさ。



大人になっても体を優しく包み込まれることを、誰もが心のどこかで待っている。


他に何もいらないって、こういうときに使う言葉なのかもしれない。
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