手をのばす
私は上の空で、部屋のキッチンに立っていた。

張り切って料理をしようと思っていたのに、


「あの二人・・・・・・まだつながっているの?」


まさか。だいたい沢渡がそんなことをするはずがない。


「江崎さんとこうしているなんて不思議だな」


耳元で優しくささやかれた声を思い出すだけで、胸がぎゅっとしめつけられる。


私と付き合っているのに、沙耶とも親しくするなんて。

そんなこと。



付き合っている。

そうだよね?

沢渡から何も宣言はないけれど、私たちは付き合っている。

恋人同士?両思い?


疑念は泡のように浮かんでは消えてゆく。
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