手をのばす
「おい、ちょっと待て!」

青い顔をした佐々木部長がその女性の腕をつかんだ。


やっぱり、あれは佐々木部長の奥さんだ・・・・・・。

目の前の光景にただ呆然とする。


「あなたとじゃ話にならないから、あの人と話に来たのよ」

部長の手を振り払って、女性はこちらを睨んだ。

悪意の滲むその目に、私は背筋が凍るのを感じた。



そして、まっすぐに私のデスクへ歩いてくる。

恐怖から、私は視線を足元に落とした。


固いハイヒールのかかとがコツコツと辺りに響く。

その音は、私の目の前で止まる。

息を吸うことも忘れてしまう。



「あなたが、田島沙耶さんね」


奥さんは、低く落ち着いた声でそう問いかけた。


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