手をのばす
顔をおそるおそる上げると、奥さんのしっかりと見開かれた目は、沙耶に向かっていた。


それにならって隣の沙耶を見る。


うつむかずに、まっすぐ強い視線を奥さんへ向けている。

背筋を伸ばす立ち姿に、恐れの雰囲気は全くない。

私の知らない沙耶がいた。

「主人のことでお話があるの。お仕事中申し訳ないけれど、ちょっと時間をいただける?」

わずかに黙った後、沙耶はゆっくりと答えた。

「今は就業時間中です。昼休みでもよろしいでしょうか」

その答えに納得が行かなかったようで、

「いいから来なさいよ!なんならここで話したってかまわないのよ!」

奥さんは唇をふるわせていた。


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