手をのばす
おびえながら、それでも少しだけ期待しながら、待ちに待った新人歓迎会の日。

沙耶は主役なのにもかかわらず、端の方の席でグラスを傾けていた。


時折周りの人とそれなりに話をしている様子もあったけれど、ほとんど口を開いていなかった。



それはもちろん私も同じ。



沙耶とは運悪く席が遠くなってしまった。

私はやっぱり周りに溶け込めず、おいしくもないビールをちびちび飲む。


でも時々用心深く沙耶の様子をうかがいながら。


「楽しんでる?」「仕事は慣れた?」


と自然に沙耶へ話しかける自分を想像していた。

どうしたら不自然でなく彼女のそばに行けるだろう。



でも、他の同僚の目が気にならないといったら嘘だ。


沙耶に近づくのを、

「輪にとけこめない仲間を見つけたのね」

なんて思われるのも嫌だった。

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