手をのばす
この期に及んでまだ意気地のない自分、情けない自分に腹がたった。

それでも私は動けない。


どうしたら、どうしたら?


腕時計を何度も覗いた。

絶好の機会のはずなのに。


時間だけがどんどん過ぎてゆく。




「それではみなさん、宴もたけなわですがそろそろ移動しましょう。2次会はカラオケでーす。場所は・・・」


幹事の高らかな声で歓迎会の終了を知った。


そして自分を心底嫌悪する。


沙耶に近づくことすらできなかった。

今日こそ。そう思っていたのに。


私は仕方なくのろのろと席を立ち、深いため息とともに出口に向かおうとした。

その時、後ろから小さな囁きが聞こえた。


「・・・あの・・・」


振り向くと、そこには沙耶が立っていた。
< 21 / 203 >

この作品をシェア

pagetop