手をのばす
「あの…あたし…」


お酒の場での遠慮ない笑い声に邪魔されながら、沙耶の声は途切れ途切れで私の耳に届いた。


でもその後の言葉が続かない。


私の目の前でうつむいてしまった。細い肩がふるえている。


「私だ…」

ふっとそう思った。




彼女はまるで、私だった。

なのに勇気をふり絞って、声をかけてきてくれたんだ。


私にはどうすることも出来なかったのに。



私と話すためだけに必死で言葉を探す沙耶を、この時心から愛しいと思った。


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