手をのばす
「うん。この前ね、勇気を出して一人で行ってみたの。なかなか楽しかったよ」


私は沢渡の話を、なぜか口にしなかった。


「ええーそんなのずるい!!どうして誘ってくれなかったの?あたしも一緒に行きたかったのに」

「沙耶はこの前親戚の披露宴だったじゃない。そのときに行ったの」

ブラウスのボタンをとめながら、私は答えた。

「じゃあ今度そのお店連れて行ってよ。ね?さっそく今日行っちゃおうか」

沙耶は、着替えもせず話に夢中だ。


「え、今日?う、うんそうね・・・」

「なあんか、由紀子気が進まない感じ」

「そんなことないけど」


ロッカーの扉を閉じながら私は

「さっき行ったばっかりなのに、また夕方行くのもナンだなって思って」


「そっか、そうよね。じゃあ明日にしよっか。由紀子、明日の朝はそのお店に寄ってこないでね。帰りに一緒に行こうよ」

「うんわかった」

私が答えると、沙耶は満足そうに笑って、やっと着替えを始めた。
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