手をのばす
お店が混んでいて忙しければ、私たちが来ていることを沢渡に気づかれずにすむかもしれないのに・・・。

私の願いむなしく、平日の夕方だからか人はまばらだった。


「ねえ由紀子はいつも何飲んでるの?」

急に話しかけられて、私ははっとした。

「うんと、これかな」とメニューを指さす。

「じゃあ私もそれにする。ねえこの後どこかでご飯していこうよ。今日はどこがいいかなー・・・」


沙耶がそう言ってほおづえをついた時、ふっと自分の背中に気配を感じた。


反射的に、私は狼狽していた。






「江崎さん、いらっしゃい」

いつもの笑顔で、沢渡が立っていた。
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