手をのばす
「夕方に来るなんて珍しいね」

私はゆっくりと沢渡のほうを見上げて


「そうなの」と短く答えた。

彼は沙耶にも愛想よく、軽い会釈をした。

沙耶は不思議そうに私と沢渡の顔を交互に見ている。


観念して私は

「こちら高校の同級生の沢渡くん」と紹介した。

と言っても、沙耶はまだぽかんとしたままだ。


仕方がないので続けて

「こちらは沙耶。会社の同僚で仲良くしてくれてる子なの」

今度は沢渡に言った。

よろしく、と動く沢渡の口の形に、私は一瞬気をとられた。

でもすぐに目をそらした。

注文を伝えると、

「ゆっくりしていってね」と沢渡は戻っていく。


とりあえずほっと一息ついて水を飲んだ。
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