手をのばす
「なあんだ、そういうこと?」

沢渡がいなくなったとたん、沙耶は口を開いた。

「なになに?高校の同級生って?もしかして由紀子、あの人がいるからこのお店に来てるってこと?」

沙耶はテーブルから身を乗り出した。



何も答えられずにいると、

「そうなの?そうでしょ?」とさらに問い詰める。

「違う違う、そんなんじゃないって。ほんとに偶然なの」

私は慌てて言った。



「そうかなあ?なんかそんなカンジじゃなかったけどなあ。ワケありっぽいっていうか・・・」

「本当なの。ただお店が気に入ったからきてるだけなの。それだけ」

あまりムキになっても怪しいので、やんわり否定を通した。



「ふうん、そう。それにしても、高校の同級生かあ。ふうーん」

まだ疑いの様子を見せながらも、やっと沙耶は追求をやめた。



でもどこか私は不安だった。

沙耶が本当は何を考えていたのか、このときの私にはまだわからなかった。
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