手をのばす
やっと目の前の書類が一段落すると、開放感で思わず椅子にもたれかかって大きく伸びをした。

小さく「うーん」と声も出してみると、ああ今日も働いたなあと思う。


こうして仕事に没頭することなんて今までなかった。


広いフロアを見渡すと、奥の方にぽつんぽつんと残っている人たちが見えるくらいで、ほとんどの同僚たちはすでに帰ったようだ。



灰色の壁にかかる時計は21時半を指している。



ふと、このまままっすぐアパートに帰るのもナンだな、と思い私は立ち上がった。


沢渡のいる店は22時までだ。

急げばまだ間に合う。


私は足早に更衣室へと向かった。
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