手をのばす
私が座るいつもの席へ、沢渡がおしぼりを持ってやってきた。

「今帰り?最近忙しそうだね」

閉店間際の店内は、人もほとんどいなかった。


「ちょっとね。沢渡くんもおつかれさまです」


私は冷たいおしぼりを受け取りながら答えた。


仕事上がりが遅くなり、沙耶と一緒に帰らない日は、ちょくちょくこの店に立ち寄っていた。


ここのところの急な忙しさに慣れなくて、最近朝はちょっと寝坊がちだったし。

それで以前のように、出勤前に来ることができないという理由もあり。

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