手をのばす
高校を卒業して三年。

今ここに立って振り返るならば、とても早い時間だったとも思える。

でもあの頃を生きていた私には重くてつらい時だった。

ただそれだけだった。


そしてこの先もずっとこうなのかな、と思うたびに、私に生きる意味はあるのかなと考えた。



沙耶との出会いをきっかけに少しずつ変わることができた私に、それがもたらしたいろいろなことを幸福に感じている私に、沢渡の一言はすっと入りこんできた。


私はまた幸せを感じることができる。

あたたかさを感じる。


今日やっぱりここに来てよかった。

一日の最後に、このひとに会えてよかった。


注文したいつものコーヒーを運んできた沢渡が、思い出したように言った。





「ああ、そういえばこの前江崎さんが連れてきた子、沙耶さんだっけ?彼女店に来てくれたよ」
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