手をのばす
沙耶
そんな這うような日々を続けていた、ある年の4月1日。


新しい年度を向かえた社内では、どこか澄んだ雰囲気だった。


いつもは雑然としている机の上を、いそいそと片付けている上司。

いつもは拭きもしない窓ガラスを、ちょっとだけ磨いてみせる先輩。

パソコンのディスプレイの上に降り積もったほこりを、丁寧に雑巾で拭く後輩。


またどうせ変わらぬ業務が続いていくだけなのに、同僚たちはそれぞれ気持ちに区切りをつけて、明るい表情を浮かべている。


「さあー今期もがんばりますか」などと口にする人もいた。

もちろん、私に話しかけているわけではないけれども。




そんな年度初めの朝礼で、上司の隣に小さな女性が並んだ。
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