手をのばす
話したい、聞いてもらいたいと思っていたけれど、いざとなるとどう話の口火をきっていいのかわからない。


沢渡も、これ以上踏み込んでこない。

あれこれ聞き出そうとは、しない。

それは今、心地よかった。

この落ち込んだ気持ちを説明しなければならないと思うと、やっぱり気が重い。

それに、言葉にしてしまうと、そのつらい気持ちを再確認してしまう。



そうしている間に、注文したラーメンが二つ運ばれてきた。

「そう、元気になるよね。じゃあいただきます!」

私は思い切り麺をすすってみた。

音を立てすぎて「はしたなかったかな?」と思わず沢渡の方を見てみると、

そんなことを全然気にする様子もなく、彼も目一杯麺をすすっていた。

それを見て私もまたラーメンを一口すすった。

そのたびあたたかい熱が体の中によみがえるのを感じていた。




このひとといると、あたたかい。
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