笑わない王様
「本当災難だったねぇ。びっくりしたよ!でも無事でよかった」
深月のキラースマイルが炸裂する。
教室に戻った途端、走って駆け寄ってきて心配をしてくれた深月。
本当に天使だ…。
「お弁当食べるの待ってたんだ!時間もないし早く一緒に食べよう」
そう言って、可愛いピンクのお弁当箱を手にする深月。
「待っててくれたの!?ごめん…」
「私が一緒に食べたかっただけだよ!気にしないでっ」
容姿もいいしTHE・女子だし性格までいい…
こんな子が喋りかけてきてくれてこうやって友達になってくれて、友達運は人生でピークなのかもしれない。
「何されたの?変なことされなかった?」
今度は小さな卵焼きを口にしながら私に問いかける深月。
「変なこと…」
正直に全てを言おうとしたけど、
「ううん、何も!」
なんだかみんながもっとなぎを怖がりそうで黙っておくことにした。
「…そっか。なら良かった」
あの状況でなにもなかったという方が無理があるのに、深月は深く聞かないでいてくれた。
「ねぇ萩原君って、小さい時もあんな感じ?」
「え?」
「幼馴染でしょう?ほら、何ていうのかなぁ。俺サマっていうの?」
「あ〜…」
萩原。
その名前には今だにぴんとこない。
「うーん、どうだったかな。まあ今は高校生ってのもあるし、あの時はまだお互いに小さかったから…」
萩原なぎさ。
私は何となくわかっていた。一瞬で察して、特に驚くこともなくわざわざ触れることでもないと、脳が反射したから口に出さなかった。
なぎの名字が変わっていることに。
「なんかごめんね、ご飯は楽しく食べなきゃね!」
私が暗い顔をしていたのか、深月は明るい声で話題を変えた。
そうだよね!
うんうん!
からあげも硬く感じる!
「あ、ねぇ深月ってさあーー…」
もう考え過ぎないようにしよう。
何もなかった。それでいいんじゃないかな。