笑わない王様
お母さんは急に立ち上がって、引っ越したばかりで手をつけていないダンボールばかり置いてある部屋へ向かった。
「え、ちょ。なに?なんの事言ってるの?」
私も慌ててお母さんの後をついていく。
「お母さんなぎさくんに悪いことしたかも!」
ダンボールの中を漁りながら、お母さんが言う。
悪いことって、なに?
「お母さん、ちょっと一回説明……」
「あった!!」
私が言い終わらないうちに、お母さんはあるものを手にしそれを宝物みたいに掲げた。
「…なにそれ?」
私の頭の中はハテナだらけ。
「これ!その時なぎさくんにゆずに渡してくださいって言われてたのよ!」
お母さんはおもむろに私の手を握り、一枚の封筒を渡した。
「なぎ…が…?」
「そう。引越しの予定早まって、急に引っ越すことになってバタバタしたじゃない。それで手紙の存在も今の今まですっかり忘れてたわ~…」
申し訳なさそうに手を合わせ謝るお母さん。
今はそんなことどうでもよくて、私はその手紙を受け取りすぐさま自分の部屋へもどった。
「あっ、ゆず!本当にごめんね!」
後ろからお母さんの謝る声が聞こえるけど、それどころじゃないのだ。
部屋につくまでが長く感じた。